砂漠に、花が咲いていました。 それは、最後に残った花でした。他の花々はもう死に絶え、唯一その花だけが生き残っていました。 しかし、そろそろ体内に蓄えていた水分は無くなりかけ、ただ孤独に渇きと戦っていました。 この辺りは湧いていた泉が枯れてしまった為に人が立ち寄る事がなくなり、昔のように花を見る人は何年も前に消えてしまいました。 花まで、消えようとしていました。 花びらはすっかりしなびて、葉もカサカサになりました。 もうそこから今までの華麗な姿を思い起こす者はいないでしょう。 ですが、一心に見つめるひとつの目線がありました。 一人の少女がいつの間にか不思議そうに花を見つめていたのです。 花は思わず、話し掛けました。 「君は誰なんだい?」 「きみだれって?」 「君の事だよ。君の名前は?」 「なまえ? なんのこと?」 「何て呼べばいいの?」 「どうしてよぶの?」 なぜか、要領を得ません。 それでもうれしい事でした。もうずっとこの何もない砂漠で一人でしたから、話ができるだけで嬉しかったのです。 それももう、これ以上叶いそうにありませんでした。 本当に、体内の水が尽きたのです。 もう、死ぬ所でした。 「すまない。もうだめみたいだ」 少女は何のことなのかわからないようでした。 ただただ不思議そうな目で、花を見ています。 彼女の手が乾燥した葉に触れ、粉々になりました。 でも、粉々になったは全てが彼女の手の中へ入っていったのです。 そして枯れた花を少女は手に取り、胸元へ入れたのです。 そこは、水で溢れていました。 明るい光が差し込み、花が十分に花を咲かせ続ける事ができます。 水を存分に飲み込んでいきました。少女の体の中で。 十分な記憶がなく上手く会話する事ができなかったのは、あの少女は水だからでした。 花は少女の中で生きています。 花の体は大きくなり、更に成長してゆきました。 最後に、あの少女は泉へとなりました。 泉となった少女は再び人を寄せ始めます。 生命を助ける泉となった少女の元に訪れる人々は、大きな花の樹を泉の目標としました。 それは、あの枯れていた花だったのです。 |